一章の2 五月

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 言うことは良く分かる。それもそうかとあからさまに頷いてみせた。  とはいえ、半信半疑な事に変わり無く。もう少し、高度な事を頼めば良かったと今更思う。  例えばそう――もう、働かない世界にして欲しいとか、世界壊してくださいとか無茶苦茶なこと。 「さあ、始めるで?」  張り切る神様とやらが踊り出す。机の上にとんと足を付けて、くるくる回る。暇つぶしにはもってこいな余興だと思った。  狐耳を頭巾の間から、はみ出させてひくつかせ、尻尾を揺らして奇妙なステップを踏む。何時の間にか、扇子なんぞ持ち出して爆転繰り返したその後に、仕事帰りの楽しみにと注いでいたグラスのバーボンにいきなり尻尾を浸した。 「おい、こら狐っ」  私は、つい口を開く。細い狐の眼差しが生意気な程鋭く此方を見詰めて、口元に笑みを浮かべる。  何か言ってやろうかと身構えた矢先に、狐は尻尾を直立させて印を組む。  印と言うのは太古の昔、忍者と呼ばれた隠密稼業の人間が編み出した術を使う際の仕草だとは知っていたけれど、まさか、こんな近代で――しかも、そういう御伽噺が真っ向から否定される時代に目の当たりするとは思いもしなかった。
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