一章の2 五月

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 ことりと、グラスが傾いた。私は慌てて布巾を掴んだその時、狐が爆転し白羽の頭に乗り零れたバーボンを指差す。  私も白羽もつられて目線を落とせば、そこには、銀矢の姿があった。 「真田銀矢が襲われた時の再現や。声まできっちり入れといたさかいに。分かり易くなっとる筈や」  白羽の頭の上の狐が笑いながら説明を加える。 「あっ――この子のことかな。銀ちゃんが気にしてた――」  映像。そうとしか形容し難い物を見せられた。そこに白羽が素っ頓狂な声を響かせる。  それもその筈だ。  そこにあった事実に、私だって瞬く。出来るなら、騒ぎたかったが声は出ない。  強姦場面の後に、光輝くその先から投げられた臓器。そのおぞましさに吐き気を覚えたが、怖いもの見たさからか体が動かない。  食い入るように見る。とは、こういうことらしい。  全ててが消えるその瞬間、映像とやらのその端に、人間が映る。 「ああ!」 「何っ」 「この子知ってる。僕――会ってる」  いきなり上がる白羽の声。半ば呆然と続けられた言葉に、狐も私も顔を見合わせる。  その後、流れ落ちたバーボンの液体に学校が映る。どうやら、白羽と狐の出会いの場面に移ったようだ。
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