一章の2 五月

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 流石に、それは勘弁願いたい。まだ、若い。そんなくだらない事で人生台無しにはしたくない。そうでなくても、私の周りは犯罪者だらけだ。  裏道を抜ける。何の警戒もされていない通路に、街灯はぽつねんと立ち並ぶ。  深夜一時。今夜は、早上がりの日で助かった。何時までも、狐とじゃれる白羽を後ろに、マンションのエレベーターに乗り込む。  客との賭け事で貰えたマンションだ。偶然にしろ何にせよ、家がある幸せはこの上無い。 「今日は、私のところに泊まること、連絡入れときなさいよ」 「ああ、でも、携帯は狐芽が食べちゃったんだ。さっき見たでしょう」  四階のマークが点滅し、ドアは開こうと伸ばし掛けた手を止める。  そうだった。黙り込んでいたから存在を忘れていた。狐の処理をどうにかしなければならない。現実派の連中に見つかりでもしたら、務所行きでは済まされない。 「私から、連絡入れておくわ。入って」  仕方ない。白羽の母さんは苦手だと思いつつ、周りに人が居るとも限らない際どい感覚を持ちつつ、二人を――いや、ひとりと一匹を中に入れて、電気を付けた。 「ありがとう。助かる。母さんは兎も角、父さんはうるさいから」
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