一章の2 五月

12/14
前へ
/320ページ
次へ
 今月の事件特集成る企画番組に、銀矢が襲われた事件が上がる。既に、現実派と不思議派に分かれた人間達が、討論を繰り広げていると言う。  銀矢本人の謎と言うよりも、犯人逃走と紛失の謎が専ら議題の内容らしい。 「銀矢は、死んと良かったな」  狐がせんべいを頬張りながら、言う。 「狐。あなた、本当に、何を知ってるの」  机の上にいる小さな忍者服の狐を睨む。狐はへらへら笑いせんべいを噛み砕いた。 「今は、知らんでええよ。それより、五月――これもうないんか?」  空の袋を振る狐は無視して、テレビ画面に視線を変える。くだらない討論を流し聞いていたが、なんの手掛かりもない。悔しいが、狐が見せた映像が一番正しいものに見えた。  白羽は、クッションを握り締めたまま、ソファから動かない。考え事をしているのだと知っているので、髪を乾かしにリビングを離れた。  洗面台の鏡に自分を写す。黒く伸びた真っ直ぐな髪にドライヤーの熱を吹きかけて、数分、やっと重い髪が軽くなった。円眼鏡を掛けようと、眼鏡を手にする。 「五月さん、来て、早く」   いきなりの白羽の声に、ドライヤーを籠に投げ入れて、リビングに戻る。テレビ画面に大きく映し出されていたのは私と白羽が知る神主だった。
/320ページ

最初のコメントを投稿しよう!

65人が本棚に入れています
本棚に追加