一章の2 五月

14/14
前へ
/320ページ
次へ
「なあ。あの爺ちゃんに会わせて貰えんか」  細い狐の眼差しが、私を捉えた。恐らく、聞き返しても無駄と判断して、承諾し、受話器を取る。今時間、神主が起きているとは思えなかった。案の定、留守番電話のメッセージが流れて消える。 「もしもし、五月です。明後日、午後五時に。白羽と変な狐が訪問します」  簡潔に、それだけを述べて受話器を置く。次いでだからと白羽家への連絡を入れた。 「白羽ちゃん、今日は帰らないのね。分かったわ。五月さん。食べちゃ駄目だからね」  自分より遥か年上の可愛らしい声が、とんでもない事を告げてくる。だから、白羽の母親は苦手だ。 「明日の昼までには帰しますので、心配なさらないでください。では、夜分遅くに申し訳有りませんでした」  一方的に、告げて受話器を切る。それ以外に、白羽の母、あずみと会話を止める手段を私は知らない。 「五月さん。母さん、なんだって?」  狐を弄る白羽に微笑みだけ投げて、私は寝室に逃げた。  先の会話を、白羽に告げるつもりは無い。  後は、明日だと、今日は考えることを止めた。
/320ページ

最初のコメントを投稿しよう!

65人が本棚に入れています
本棚に追加