一章の3 小雪

2/11
前へ
/320ページ
次へ
 覚めない夢はあるらしい。  体に染み付く恐怖や悦楽が混沌から湧き上がり、私を抱く。  手足の枷。首に食い込む首輪の苦しみ。眼前で、行われていく処刑の光景。  自分の番に来るまでに逃げなければ、あの驚喜じみた犬の牙に八つ裂きにされる。  地面に刺された杭に縛られた仲間。  放たれた猟犬に、手足を食い散らかされで悲鳴を上げる。見ていられずに、顔を背けた先で、今度は、仲間の頭が転がり落ちた。  叫んだ。喉奥に痛みが走る。それでも環境から逃れようと身悶えた。  これは、夢で幻覚だと訴える。然し、犬共が上げる唸り声は、手足を繋がれた私に向かい近寄ってくる。  叫ぶ。叫び続ける手足に、獰猛な犬が食らいつく。  血飛沫と億劫で強烈な恐怖が全身を煽り立てる。  悲鳴――。  限界が、現実へ意識を戻す。  吐き気と伝う汗。髪まで汗に濡れて、胸が軋む。  ベッドから飛び降りて、洗面台に頭を垂れる。  込み上げた胃液を吐き出し、顔を上げ鏡に映る姿から目を背け、顔だけを適当に流して、毒づいた。 「畜生――いい加減にしろ」  子供の頃から、見続けた悪夢。私の神経はイカレテイタ。
/320ページ

最初のコメントを投稿しよう!

65人が本棚に入れています
本棚に追加