一章の3 小雪

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 冷たい水を頬に当てる。毒づいても何も変わらない現実に、苛立ちが積もる。  家系だかなんだか知らないが、犬には近寄るなと叩き込まれた理由も今更、納得する。  毎晩続く悪夢と惨殺にあの生き物に嫌悪感と憎しみだけが募る。普段は隠しているが、ひとりの時にはテレビ画面越しの犬にさえ、切り刻みたくなる衝動が芽生える。  やっぱり、イカレテイる。もう、巻き戻しできない場所まで、墜ちている。  台所にある包丁の柄を握り締め、勢い任せに枕やクッションを突き刺した。  まだ、十七歳で精神不安定による衝動病に悩まされる。これだけ、滑稽で哀れな精神の持ち主な私は、このまま生きていても意味は無いと誰かに言われた。 「存在否定も大概にしやがれ――」  包丁を枕に突き立てたまま、ぼんやり見詰める。やがて、それすら飽きて、服を着た。  時計の針は、二十三時。携帯で暇な男を呼び出すには良い時間帯だと言える。  そのまま、数人に連絡を付けて、私は黒いコートを羽織り、金の金具がついた黒いブーツを履いて、部屋から数分で着く街へと出た。  待ち合わせ場所は、仙北市の繁華街寄りにある公園だ。そこは、私と同じ暇人が良く集まる場所だ。公園の名前は、鰯雲。
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