一章の3 小雪

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「ほら、この前、不思議派の大学生が刺された事件のせいだ。東区の連中が疑われてるらしい」 「へえ。それは大変ね」 「大変って言うよりとばっちりだろ。何故か死体は解体、死にかけの大学生にはそんなこと出来る余裕も無かったってな話だからな」  短い言葉で言えば、謎の事件とでも言いたいのか北斗は眉一つ動かさず、答える。  私には関係は無い。そうは思うが、話の最中に、唇が疼いた。  ――なんだろうか。脳裏に走る痛みと残像に、私は、公園を見渡していた。  見渡す行為は、殆ど、気を紛らわせる為の行動。  知らない振りをして話を先に進めようとした。 「なあ。小雪さ。確か、その日。東区に居なかったか?」  なのに、北斗が余計な事を口走る。 「そうだった?」  だから、惚けた。兎に角、場所を変えようと模索して、駅をひとつ離れた街の喫茶店を上げる。  話をはぐらかした私は、二人と共に喫茶ヴォルツに向かう。律儀に二十四時間開いてる喫茶だ。名前の意味は知らない。店の主が、響きが良いので付けただけという話は聞いたことがある。  移動方法は、歩行ベルトを使う。大通りに面した場所にのみ設置されたそれは、線路と同じ道教を移動出来るようになっている。
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