一章の3 小雪

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 現代社会の科学の進歩は著しい。最も、私には何の関係もないことなのだが。 「小雪。病院へは行ってるのか? 佐久間の野郎に知られたら、また、監禁されるぞ」  春の陽気に遊ばれる桜が、舞う。  動く歩道の上をゆるりと吹く風に紅葉の細い髪が揺れる。  そんな紅葉の通告も、私には、疎ましいだけ。 「監禁ねえ。あいつは犯罪が好きなだけよ。病院の面会謝絶ならもう馴れた」  「病院は嫌だな。いっそ、殺してくれ」  紅葉が言う。北斗が携帯を眺めて笑った。 「物騒だな。相変わらず」 「そうか? 安全保障なんかないだろ、この世界」  紅葉が、空を見上げて答えを紡ぐ。  確かに。  安全保障は愚か、現実、現実と騒ぎながら夢を追い、二次元や異世界とやらの架空物語を具現化した職業が目に付く時代。  私に言わせれば、現実を告げる輩の方が危険な存在に見えてくる。  自分が如何にまともであり、社会からはみ出していない正常者かを振りかざし、はみ出し者を攻撃することで世界を成り立たせていく光景。  正常者と異常者の区別も知らないくせに、己の価値観を叩き付けてくる世界が私は大嫌いだ。  私は、正常者でも異常者でも無い。  ただの人間だ。
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