一章の3 小雪

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 喫茶店の入口を潜り抜ければ、店員が席へと案内する。  夜長を過ごす阿呆達の中に、東区の曲者を見つけた私は足を止めた。  その取り巻きに輝美がいる。 「紅葉。騒動は止めとけよ?」  北斗もそれに気付いたか紅葉を鋭い口調で制する。  一人っ子の私には到底分からない兄妹のわだかまり。確か、紅葉の両親は離婚していて、妹の輝美は父親に引き取られたと言う話は聞いている。  敵地にいる妹との再会。それはある意味残酷な光景。  紅葉が、案内された椅子に座る。続けて北斗と私も腰掛けた。  店員がお冷やを差し出して去るのを見送る私に、紅葉が口を開く。 「厄日だな――」 「そうね」 「だけど奴らが、鬱陶しい」  小さな――限りなく細い声が響く。  それに重なり、硝子窓がが割れた。まるで、笑えないコントの一場面を見ているような感覚に襲われる。  周囲がざわめくその先から、最近現れる怪物が牙をき、窓際の男女を豪快に喰らう。  上がる悲鳴に、泣く子供。平然を装う私達の態度に、東地区の餓鬼(がき)共も殺気立つ。  獰猛な野獣。研究部のイカレタ人間が作った狂犬。怪物に、固有名称は無い。
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