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誰が定めた法律でも規律でもないが、怪物を倒すことは現実派の仕事だと言う。
つまり、不思議派は怪物を保護し現実派は怪物を抹消することだと言うことらしい。
無論、私だって、あんな化け物と闘うつもりはない。
また、記憶が飛ぶなど、真っ平だった。
「輝美っ」
紅葉が叫んだ。
視線の先で怪物が涎(よだれ)と血を滴らせた口を開く。
腰を抜かす輝美を頭から喰うつもりか、その眼差しは無駄にぎらつく。
無駄と知りつつ、ナイフを怪物に突き刺そうと掴む。
だが、其処に怪物の断末魔は轟いた。
反射的に、動きを止める。
いったい、何が起きたというのか、怪物は喫茶店の床に紫色の液体をぶちまけて、倒れた。
「輝美……てる、みっ」
紅葉が私の隣から駆け出す。
「小雪。俺は美雪様に連絡取ってくるよ」
「うん、わかった。気をつけてね。北斗」
携帯片手に、場を後にする北斗から視線を外した私は、怪物を切り裂いた長髪の男を睨む。
見覚えのある背中だ。振り向いた男の頬にある傷。
あれは、美作信濃(みまさかしなの)……何故此処に?
だけど、私に聞く権利は無い。
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