一章の3 小雪

10/11
前へ
/320ページ
次へ
 私の知るところではない。  美作が振り抜いた刃を鞘に納めた。怪物の息の根を完全に止めたことを確認し、何も言わずに去る。  怪物が残した異臭が、茫然と佇む店内に広がった。再び襲う吐き気に、私は胸元を抑え、そのままへたり込む。  紅葉が妹を抱き締めたまま動かない光景を見るのがやっと。  怪物の臭気には、身動きが取れない。鼓動だけが速まり、息遣いが荒さを増した。 「てるみ……嘘だ、おい、動け、なあっ」  紅葉の声が喫茶店を埋める。私は、その場にうずくまるだけ。駆け寄る術もなく混沌を眺める。 「小雪。外に出よう」  連絡を付けて戻って来た北斗が、私の腕を取る。  驚き振り返ると、険しい顔付きの北斗に嫌な予感を覚えた。  生臭い喫茶店からすり抜けて、北斗の手を振り払う。 「何よ」 「処刑者が動いてる。ソルティの連中だと美幸様から言われた」 「ソルティって、ソルティカンパニー?」 「ああ。処刑者オショロ。現実派所属の調教師だという情報を貰ったよ」 「厄介ね。北区の連中目を付けられるようなことをしたの?」 「いや、輝美がなにかをやらかしたらしい」  北斗の不穏な言い回しが気になった。
/320ページ

最初のコメントを投稿しよう!

65人が本棚に入れています
本棚に追加