一章の4 美作

3/10
前へ
/320ページ
次へ
 思えば、私の周りには不思議な名前が沢山ある。  恋人の小泉五月、友達の真田銀矢、庭瀬白羽、何かというと面倒を見てくれる白夜時雨という神主――どれも現代の名前の作り方とは外れているとそう思う。だから、なんだと言われると困るのだが私には不思議なのだ。  名前も不思議だったが、愛刀の名前と役割とやらも奇妙なもので、先祖代々伝わる秘刀と言うから疑問が絶えない。  そればかりか、愛刀の夕張は、人を斬る為の道具ではなく、魔物や妖を斬る道具だという。この近代において非現実的な物を切り刻むというのは、いささか合点がいかない。  しかしながら、非現実的要素を踏まえた生物がこの仙北市を徘徊していることに間違い無い。因みに、発祥地も組織名も私には伝わっていない。神主が詳細を掴み次第教えてくれるとは言うが、何の音沙汰ない。  とにかく、向かうべきは五月のマンションだ。動く歩道は苦手なので避けて歩くのだが――方向音痴の私は、即座に道を見失う。  然し、不覚。ほんの少し気を逸らしただけで行き止まりにぶち当たる。この容赦ない運命は御先祖様からの遺伝だという。  仕方無しに携帯を使う。連絡先は、五月のところだ。まだ、起きているか不安が残る。
/320ページ

最初のコメントを投稿しよう!

65人が本棚に入れています
本棚に追加