65人が本棚に入れています
本棚に追加
連絡を取れば、五月の声が受話器越しに聞こえる。
「そこで待ってて」
それだけ告げた五月が、連絡を切る。普通、方向音痴とは関わりたくないと思う人間が多い中で、五月だけは面倒を見てくれる。それが付き合いだした切欠だ。
しばらくして、五月が駆けてきた。さきの化け物退治の後の為に、服は、化け物の液体で汚れていた。
「派手にやったわね」
ハンカチを差し出してくる五月が、微笑んだ。普通の女なら、今の私の姿を見て驚くというのに。
「二匹倒した。五月こそこんな夜中にすまない」
「別に気にしないで。シナの放浪癖にはなれてる。行きましょう。車、出してもらったから」
五月に手を引かれて、車道に出る。車道には、白いアルファロメオが止まる。後部席に座ると運転手が車を出した。
「お久しゅうございます。美作様。五月はんからは話は聞いておりす」
ハンドルを切る運転手が、バックミラー越しに口を開く。帽子を被っていて分からなかったが、夏枝だ。
「なっちゃん? 本当に、久しぶり。いつ、仙北に?」
「へえ、美作様がおらんようなってから、直ぐに、春日の一族を探して上京して来はりました」
「二ヶ月前か? それはそうと、まだ、探していたのか。もう八年にはなるだろう」
最初のコメントを投稿しよう!