一章の4 美作

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 軽快な車輪音の後に、夏枝が言った。 「今からいうんは占い師はんが言ってたことなんですが――えらい真実味のない話よって、驚かないで聞いてほしゅう御座います」 「真実味の無い話? 春日一族と青葉一族が仲違いしているだけの話ではないのだな?」 「へえ。知ってのとおり、仲違いは昔からある話です。原因は青葉と春日の跡継ぎ同士が恋仲になり、青葉の嫡男が、春日の長女を裏切りよったことから始まったと聞いとります」 「そうそう。それが長年続いているのよね。奇妙なことよね。嫡男と長女が必ず恋仲になる。一種の呪いと聞いたわ」  傍らの五月が相槌を打つ。 「占い師はんの言うには、その派閥争いが、近々激化し国を巻き込んだ大惨事を齎すのだというんです。それで、私は、春日一族の長女を探し、保護することをあるお方から命じられました。それが、五年前。美作様にお会いする前の話になります」 「そんなに前になるのか。然し、国を巻き込むとは話がでかい。そんな真実味の欠片も無いことを夏枝の上司は信じたのか?」  あの方という含みを持たせた夏枝に、心当たりもなく、上司という固有名詞で呼ぶ。ハンドルを切りながら、夏枝が頷いた。 「私の上司は、以前から両者の派閥争いに頭を傷めておりました。故に、占い師はんの言葉に揺れたのだと思います」
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