二章 真田

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 入院生活、半月を過ぎた頃。俺の病室は個室になっていた。この病院の院長の図らないならまだしも、その取り決めをしたのは橘花梨という大富豪の娘だというから世の中笑えない。  毛先が跳ねた蒼い髪、大陸違いからなる紫色の眼差し。活発な印象を誰にでも与える容姿。そのくせ、纏う服は何故かメイド服――なぜか。何故かは俺には分からない。橘は、何か路線を外れた趣味思考を持ち合わせている。  確か、橘の祖父が油大国で油田を発見し、富を築いた。橘は、両親と離れてたくさんのメイドと執事と暮らしている。そこまではただのお嬢様で良いのだが、寂しさから陶酔するようにはまりだしたコスプレとナリチャの技術は、下手な役者より上手い。携帯、パソコンを両手に常に文字を打ち出し、お相手を魅了する腕には、付き合いの長い俺でも驚くばかりであった。とはいえ、それで橘の寂しさが埋まる分けもない。そこで被害を被っているのが俺だ。別に橘が嫌いではない。ただ、そんな、メイドだ執事だ修道女だという世界は苦手なのだ。  そういうのを萌と現すらしい。しかしながら、チャでの知識を鵜呑みにするアホ共が、そいつを現実世界でやろうとする姿勢が俺は気に食わない。だから、ファンタジーだ現実だと変な争いは起きるのだ。
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