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電器街・異文化ZONE・ジャンクオンパレードET CETERA…。様々な代名詞が付きそうな「秋葉原」に向かう機会があった。
別にあの雑踏の中に、身を置きたかった訳ではない。…人込みは嫌いだ。行く用事があったから行った。ただ…それだけ。
雨が降り出しそうなホコ天。どんな恰好でそこに居ても、誰も奇異に思わない不思議な街。セーラー服を着た男が三人、五月蝿い音楽に合わせて踊り、それを写メに収める人達。そんな風景を横目に見ながら、一本裏道へと足を進めてみた。表通りの騒がしさに比べ、現実に戻ったような静けさが、少しずつ広がっていくような気がした。
小さな公園の前に出ると、そこにはやはり東京の色があった。片隅に張られたブルーシート。視界を遮るように立てかけられた段ボール。…ここに住んでいるんだ……。思わず足をとめた。表通りと裏通り。動と静が道一本でつながっていた。
段ボールの向こう側に人の気配を感じた時、重たい空から雨が落ちてきた。雑居ビルの狭い空間に避難しながらも、目は段ボールの向こう側を見ていた。雨よけのシートは破れている。この雨を、どう凌ぐのだろうか…。
しばらくすると、のそのそと一人の男が段ボールハウスからでてきた。重たそうな足取り。右足を引きずるように。何か古傷でもあるのだろうか。
男は、自分を見ている人間がいる事などなにもわからぬように、一点に向かって、ゆっくりと歩いて行く。その先にあるのは…電話Box。今は、使う人もほとんどいないと思われる電話Boxだった。男は、ゆっくりとその中に入り、両手をポケットに突っ込んで背中を丸めた。大きく息を吐いたように見えた。雨が止むまで、いつもここで凌いでいたのだろう。いつ止むかも知れない空を見上げながら。
携帯の時代。誰も使わない電話Boxは、人から忘れさられそうな男のために、そこに立っていた。
不思議な感覚が沸き上がる中、僕は小降りになるのを待たずに、そこを立ち去った。表通りを避けて……。
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