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絶望に揺られて
「俺様も墜ちたね……。
何やってんだか……。
これじゃ、闇のオウジサマと同じじゃねぇの。
……もっとタチがわるいか。」
雨の中佐助は歩いていた。
彼の頭の中に何度も流れる光景。
自分の目の前で矢に貫かれた魔王。
初めての、主人……。
「俺様が悪いんだよ……
勇者の侵入をゆるしちまったから……。
挙句の果てには、隙を見せて、
魔王様に庇われて……」
かすれた笑い声が辺りに響く。
自分の涙も雨に同化して見えなくなっていた。
歩く気力を失った佐助は、
道の途中で倒れた。
仰向けになって、手を額に当て、天を見る。
もう魔王の顔を浮かべることもできなかった。
「やば……。末期だ……。
……でもま、仕方ないか。
俺様が原因だもんな。
ここで死ぬのは嫌だけど、
我が儘言える立場じゃないしな。」
そっと目を瞑ると、睡魔が襲ってきた。
たくさんの後悔があった。
忍になって、一番始めに言われたこと。
私情を失くせ。
余分な感情があると早死にする。
当たってしまったと鼻で笑うと、
気がつけばその声は消えていた。
(嘘だろ……。人間界で死ぬなんて……
死ぬならせめて、主人のために……
戦場で死にたいのに……)
「……たい……
い……たい……」
小さく紡がれた言葉。
それは、悪魔らしかぬものだった。
生きたい……
佐助自身、それには驚いていた。
なぜ紡がれるかわからない。
それでも紡ぐのは、
捨て去ったと思っていた感情。
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