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長い受験勉強を終え、ちはるは見事に希望の学校に合格してしまった。そこは二人の住む隣の県。しかし車で4時間、電車で5時間というとても交通の不便な所であった。
「合格おめでとう!よく頑張ったな。俺月1で会いに行くからな♪」
けんじも笑顔で祝福してくれた。こんなけんじの優しさに、ちはるはとても癒される。
「ありがとうv待ってるからね!」
こんな感じで二人が遠距離になる日は近づいていった。しかし、ちはるは周りの友達が次々に就職先が決まっていくのを見て就職という選択肢もあったんだ…と考える事がたまにあった。そしてある日…
「あ~あ、みんな就職決まってなんか羨ましくなってきちゃった。私も就職しよっかな~v」
軽い気持ちで口にした言葉だった。当然けんじも「何言ってんだよ。」と、冗談に受け取ってくれると思っていた。しかし、けんじは急に黙り込み、俯いた。
「けんじ……?」
けんじは顔を見せようとせず、俯いたまま口を開いた。
「俺っ!……やっぱり…何でもない。」
「………何?」
嫌な予感がはしる。
「俺………ほんとは、進学なんてしてほしくない。就職がいいなら就職しちゃえばいいじゃん、って思った………ごめん。」
言って、またけんじは沈黙した。ちはるは自分の軽率さに腹がたった。けんじが優しいからと甘えて、けんじの本当の気持ちに気付いていながら、目を向けられなかった自分を責めた。
「けんじ……ごめんね。謝るのは私の方だよ。ごめん……。でも、進学はやっぱり諦められない。私、もう浮ついたりしない。だからわかって……ごめん……。」
ちはるの目には涙が溢れてくる。けんじにもう何と言ったらよいのかわからない。ただただ泣くしかなかった。
「ちはる…」
けんじはちはるを強く抱きしめた。
「わかった、俺、辛いけど応援するよ。一年間だけだもんな…。変な事言ってごめんな!!」
顔をあげればいつもの優しい笑顔……ちはるは今までこれほどけんじを愛おしく想ったことはなかった。
そして月日は過ぎ、ちはるは進学の道を選び、引越して行った。ちはるの初めての一人暮らしが始まる…。
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