18人が本棚に入れています
本棚に追加
ようやく涙を止めた希望は、翔の胸からうずめていた顔を離す。
翔を見上げようとして、それはすぐ躊躇われた。今の今までみっともない姿を見せていたのだ。どういう顔をして目を合わせればいいのか解らない。
今になって冷静に考えてみると、すごく恥ずかしい事だったのではないか。そう思い、ますます顔を上げづらくなる。
どうしたらいいのか。オーバーヒート寸前の頭で思考を巡らせるが、羞恥と焦りに邪魔された処理能力では何も思いつかない。
何も思いつかないまま、希望はあることに気付いた。
今の状態。翔に抱き締められているこの状態の方が、とても恥ずかしいものではないか。
「あ、あああのっ……!」
うつむいたまま、慌てて言葉を口にする希望。
「もう、大丈夫ですから……その……」
語尾に近づくにつれ小さくなっていく声に、翔は小さな笑いを漏らした。
翔は希望の背に回していた腕を解く。
希望は少し名残惜しいと思った。それでも、ゆっくりと一歩後ろに下がる。赤くなった目を見られたくはない。
「帰ろうか。あまり遅くなると、みんな心配するから」
「あ……はい。そうですね」
文化祭が終われば、姉に会える。この人が、会わせてくれる。
その思いを胸に、希望は歩き出した翔の背中を追った。
雨雲は晴れ、空には満天の星が輝いていた。
最初のコメントを投稿しよう!