15人が本棚に入れています
本棚に追加
「第2ボタンって一番好きな人にやるもんだよな」
ヤツは今朝、そう言ってた。なのに……。
正門から出て来たその姿を見て、俺は深い溜め息が出た。
女どもにむしり取られたのか……前だけでなく袖のボタンすら、一つも残っていない。
「何だよ! 全部取られちまったんかよ!」
嫉妬と侮蔑を込めた目で睨んだのに、鈍感なヤツは誇らしげに親指を立ててニヤッと笑う。
「俺様モテモテだからなっ。お前は……って聞くまでもねえか」
全てのボタンが残った俺の制服を一瞥して、更に口の端を吊り上げるヤツに、俺はぐっと拳を固めて殴るそぶりを見せつけてやる。
「……ちょっ、待て、待てって!」
「俺がボタン死守したのは誰の為だと……思ってるんだ!」
「ぐえっ」
ガードしてなかった腹に一発くれてやって、膝をついたヤツに背を向けて俺は一人で歩き出す。
「そんなに怒るなよぉ……俺も死守してるって。ホラ」
苦しげにうなりながらも、俺の背中に覆いかぶさってヤツは右手の握りこぶしを開いた。
「お前のボタンも……俺に寄越せ」
俺の掌にコロリとボタンを転げ落とし、ヤツの指先は俺の制服の第2ボタンを優しく撫でる。
「嫌だね。このボタン何番目のだか、わかんねぇじゃん」
拗ね気味で唇を尖らせた俺の頭をくしゃりと撫でて、俺の耳元でヤツは囁く。
「お前にやるんだから2番目に決まってるじゃねぇか」
最初のコメントを投稿しよう!