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「パパ、たかいたかいしてぇ」
庭の桜がぽかぽか陽気で一気に三分咲きになったその日、莉乃が初めて智也をパパと呼んだ。
まだ5歳だというのに何を思い詰めていたのか、莉乃は私と智也が再婚してからこの一ヶ月、智也をパパと呼びはしなかった。結婚前は時々『ともちんパパみたい』って言ってくれていたのに。
智也は『無理強いする必要もないし自然に呼べるまで待つよ』と、寂しそうに笑っていた。
血が繋がらない娘と父親。どう係わってどう家族になっていくかなんて、マニュアルなんかどこにもない。
手探りでその『自然』を模索していた私達家族は、まだ雪解けすら見えない冬のさなかにいると思っていた。
「……パパ?」
莉乃が足元で私達二人を見上げている。ごく自然に智也をパパと呼んで……。
私は智也の背中をそっと、押しやった。
「わあっ! たかいねぇ!」
莉乃が智也の肩車の上で嬌声を上げながら、桜の枝に手を伸ばす。
小さな莉乃だけでは決して届かない高みからもぎ取られた花房は、涙ぐんだ私の手の平で、家族の雪解けを報せた。
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