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新入社員歓迎会を兼ねた花見の宴席。生まれて初めての深酒で、私は記憶を無くした。
気がついたら隣には、裸の男が眠っていた。
同期入社の大卒組で、最年長の26歳。8年も大学に居座っていた親泣かせな変わり者。
そんな噂と、ちょっとだけ顔が好みってコトだけが、私が知っているこの男の全て。
「覚えてないのか?花見の間ずっと俺の膝に入ったまま、甘えてたくせに。好きだって言って離れなかったのは、お前のほうだぜ?」
目覚めてすぐに、その男はふてぶてしくこの状況を説明する。まるで私だけが、悪いかのように。
「嘘……私、そんなコトしたんですか!? 恥ずかしいっ!」
私は両手で顔を覆って、思いっきり恥ずかしそうな演技をして見せる。
心の中では舌を出しながら。
――不覚。記憶にないから否定しきれないし。好みの顔だけに……マジで私からやっちゃったのかも。
そんな思考を巡らしていた私に、彼はいきなりとんでもない事を言い放った。
「まあ、手を出した俺も俺だから責任取るよ。ただ……俺もいいトシだし、次に付き合うヤツとは結婚も考えなきゃって思ってるんだよな。それでも付き合いたい?どうする?」
付き合うコトで責任を取りたいと、言っているつもりなんだろうか。しかも結婚を前提に?!
――冗談じゃない。
別に私はこういうコト、初めてでもなんでもないし。一夜限りの遊びでしたコトも何度もある。って、18歳の小娘が言ったらどう思うかしら。
心とはまるで正反対な態度で、俯いて恥ずかしがる演技を続けていた私に、彼はすまなそうに付け加えた。
「これっきりにしたとしても、あんな醜態の後に、二人揃って消えたんだ。社内でどんな噂がたつか……わからないぞ」
カチンと来た。お持ち帰りコース選んだのはアンタでしょ。なのに今度は脅しかよ……子供だと思って侮ってるのか。だったら。
――マジで惚れさせて、捨ててやる……。
私はうるっと瞳を潤ませて、彼を見上げる。
「そんなの困ります……付き合って、下さい」
どう捨てようか……最初から別れを描きながら。
何が一体あやまちなのか今ではもう解らない。気がついたら12年。
プロポーズの言葉は、その時の台詞だけだなんて……それこそ不覚。
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