宵桜

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   想像以上に強い夜風。    春だからと薄着してきた私は、震えながら桜並木を歩く。  並木をほんのりと照らし出す提灯の明かりすら、風に揺すられて寒そうに震えているみたいだ。    さらさらと音をたてて湖面へと薄紅の形見を舞い落とす桜を見上げて、私は立ち止まる。  湖面に広がる花片の絨毯。隙間に映る提灯の明かり。吸い込まれそうになり身震いした私を、貴方は急に後ろから抱きしめた。   「あったかい……」  大きな春コートの懐におさめられて、その胸に体を預ける。   「……なあ、いなくなるなよ」  突然そう言われて驚いて振り向く。 「なんか、桜と一緒に消えちまいそうな気がしたから」  そう言って貴方は抱きしめる腕の力を増す。    いつもは甘い言葉なんて言わない年上の貴方が、ふっと漏らしたかわいい言葉。 「消えたりしないよ?」  薄く笑って背伸びをすると、そっと私から唇を重ねる。   「お前がいないと生きていけないなって、急に……思ったんだ。ずっとそばに、いてくれるよな?」  突然なされたプロポーズまがいの告白。    急に……か。    貴方、桜に酔ってるのね。  くすりと笑って私は頷いた。    私は桜に酔ったわけじゃない。ずっとずっと……そう思っていたのよ、私は。  
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