光る呪い

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 彼の左手の薬指には、先月から呪いがかけられている。  真新しいくすみのない光沢で、初々しさを見せつけるとんだ呪いだ。    それがひどく眩しい光に見えて、魔女の私はもう彼には近づけない……。     「ちか、昼飯食べにいくべ」  機械油を頬に滲ませ私を呼ぶ人懐っこい笑顔に、我に帰る。扉にかけられた左手にはあの呪いの光。彼だ。   「よっし、行くかぁ!昼喰うベ」   「女が喰うとか言うなっ」  何気ない会話をしながら事務所の明かりを全て消し、工場の廊下を二人で並び歩く。  いつも左だった私の立ち位置は、あの日から右になっている。……なるべくあの光に近づきたくないから。    並び歩く二人の距離も以前よりも、ずっとずっと開いていた。  前みたいに気軽に腕を絡ませる事も、冗談を言って小突き合う事も、出来やしなくなった。    ――悔しい。  唇を噛んだ私に彼は気付かない……。     「そうだ、ちかコレ預かって。午後から溶剤使うから傷つきそうだし」  昼休みの終わりに彼は気軽く、あの呪いを私の掌に乗せて来た。    丸いフォルムの内側にMtoKの憎い文字。    呪いを外した彼になら、近づけるかもしれない。嬉々として彼を見上げると、照れた笑顔が、酷く眩しく輝いていた。    この指輪じゃなくて、彼自身が……呪いの光を、帯びていた……。  
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