第十八章-旅の記憶-

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「……お前は間違っている」 「何故そう言い切る?」 「……ダーウィン家は……確かに…………」 俺はそこで言葉を切った。口には出せなかった。 しかし、俺はぐっと息を呑み、強い口調で言葉を発した。 「だが、だからと言ってダーウィン家の……錬金術の全てが間違っている訳ではない。 少なくとも、『錬金術の過ちは、錬金術が破壊する』。 これだけは間違ってはいない」 そう言い終えると、俺は刀を目の高さまで上げ、突きの構えを取った。 「そして、アレハンドロ=ダーウィン」 「ヴィクターだ」 アレハンドロが俺の言葉を即座に訂正したが、俺は無視して言葉を続けた。 「お前は……俺が犯した過ち」 「だから消すってか?」 「あぁ。但し……」 俺はそこで、少し力を緩めた。 「三年前の俺なら……な」 「……?」 そう、三年前の俺なら…… 「例えどんな行程であろうと、行き着いた先が悪なら、斬ると心に決めていた。 しかし、三年前……俺は少し変わった。 道を誤っただけだと言うのなら、むやみやたらに斬る必要は意味はない。 だから……」 「だから斬らない……か? 違うだろ。お前は斬りたく無いだけだ。 この俺、親愛なる元・兄。元・アレハンドロ=ダーウィンを……な」 「確かに、違う。だがお前も違う。 故に問う。 貴様は……その新しいチカラとやらを手に入れてから人を殺めたか……否か……」 俺の問いに、コイツは「あぁ、成程」と、妙な声音で手を叩き、答えた。 「クククク、殺ったぜ?何人も……このチカラを教えてくれたヤツを始め……色々と……な」 笑いを含めたその言葉に、俺はたがが外れた。 「キサマ……ッ! キサマは、弟として……悪を裁く者として……キサマは俺がッ──」 刀に力を入れ直し、眼前の敵に向かって行った。 ──しかし。 そこで、俺の時間は止まった。 「絶対零度」 そのたった一言で、俺の全身は凍結し、氷の塊の中に閉じ込められた。 「なぁ、クロス」 何故か目は見えず、アイツの声だけ聴こえる。 「お前は言(ことば)に惑わされ過ぎてんだよ。 弟だの裁く者だの善だの悪だの……どうでも良いんだよ。 要は自分が良けりゃあそれで良い。人間なんてそんなもん。 クロス、お前は天才だ。いつかそれに気付く。 そん時ゃ……」 それから、言葉は続かなかった。 聴こえてきたのは、低い笑い声。 そして虚ろな時間は流れ、俺はルビーと……お前達と出逢った──。
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