12418人が本棚に入れています
本棚に追加
「それでは先程の妙な感じと言うのは……」
「あぁ、久方ぶりで忘れていた。
あれは間違いなく、学院長の転移の波動だった」
疑問符を浮かべるクロスをよそにユリが確認を取る様に尋ね、ゲームが頷いた。
「……ゲームさん、それの何処が朗報なんですか?」
少し不機嫌な表情を浮かべ、クロスが尋ねる。
「なんだダーウィン、忘れたのか?ここの学院長──リク=イノセンスは、世界有数の魔法使い。
結界のみに於いては間違いなく五指に入る。
……お前の結界を解けるかも知れない人だ」
ゲームに代わって答えたユリの言葉に、思わず目を見開き、額に手をやる。
「本当か……!?」
「あぁ、偽りはない」
今度はヴィンセントが答えた。
「と言うコトは……」
「クロスも……魔法が使えるようになるってコト……?」
「それって……」
「「ヤッタ」」
部屋の端では、ルビーとスコールがそんな事を言い合って喜んでいた。
……しかし。
「そんな甘い話じゃないさ」
「正義の言う通りだ」
ジャスティスが二人を制し、イグナスが賛同する。
「私は直に見た訳ではないが、クロス=ダーウィンの結界は、無理に外すと“ヤツ”が来るんだろ?」
「あ……」
「そう……ですね」
イグナスの言葉に二人は声を揃え、綻ばせていた顔を凍らせた。
そう、クロスの結界の内側には、もう一人のクロスがいる。
強大な魔力と破壊的な性格を兼ね備えた、もう一つの人格が……。
「どうするんだ、ダーウィン?」
皆の意見が収まると、ユリが尋ねた。
因みに、クラウンは先程から黙って傍観している。
「決まっている」
そのクロスの表情は……。
「会わせてくれ、そのリク=イノセンスとやらに……」
口元が、確かに緩んでいた。
「分かった。元々そうするつもりで言ったしな。
クラウン、それで良いか?」
「ん……?あぁ、良いぜ。
つーか俺よりその……リクってヤツに訊いた方が良いんじゃねぇのか?」
まだ少し上の空気味でクラウンは答えた。
「それはそうだな。では、行こうか」
『はい』
ゲームに促されるまま、一同は部屋を後にした。
その中で、クロスはある決意をしていた。
(全てはキサマの思惑通り……か。だが、見ていろ……!
俺は、キサマとは違う。キサマの様にはならない!
二つを操り、混ぜ合わせ、新たな一つにしてみせる……。
それが……俺──クロス=ダーウィンの選んだ道……だ)
最初のコメントを投稿しよう!