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「ふあぁ……」
ここは、長い間主が不在だった学院長室。
だが、今はそこに主が居る。それ以外にも数人、恐らく教員と思われる者も居た。
机に突っ伏し、欠伸を洩らしながら机に積まれた山ほどの資料を相手にしているのが、この部屋の主──言わずと知れたこの学院の長、リク=イノセンスである。
その容姿は、くせ毛ではなく寝癖と思われる大胆に跳ねた薄い青色の髪。
態度や髪とは裏腹に、顔付きは精悍で、年齢的には若い。恐らく30代程であろう。
「ダルい……いっつも思うが、多すぎんだろ……」
「長らく休んでいたんですから、その分仕事が多いのは当たり前です。
ちゃんと仕事はして下さいよ」
鋭い教員の言葉にリクはむっと顔をしかめ、書類に面と向かった。
「ん……?」
少しして、リクが一枚の書類に目を留めた。
「どうかしましたか?」
「編入生……?誰だ?俺、一言も聞いてないぞ」
「あぁ……カーペンターのつてで多少強引に入ったヤツです。
なにぶん急だったもので報告が届きませんでした。
因みに、欠席が多く、今は保留扱いの生徒です」
「ふーん、成程。
でも、保留扱いって相当だな。
強引に入ったっつーか、入らされたじゃねーの?
ま、別にどっちでもいいけど……」
言って、リクは書類を適当に投げた。
「ああ……そう言やぁ、ユリは?
さっきからずっと居なかったよな?」
少しすると、書類に顔を埋めたまま、唐突にリクが尋ねた。
教員達はそれが慣れているらしく、驚きもせずに淡々と返事を返した。
「ウォーカー魔導師は、恐らく先程の生徒の所でしょう。
入ってきた当初もそうでしたが、最近では特に。
複数の生徒で特訓の様な物をやっているみたいですね」
その言葉で、リクは顔を先程投げ捨てたクロスについて書かれている書類に向け、声を洩らした。
「へぇ……、あの生真面目なユリが……いや、ユリだからこそ、かな?
生徒の為にご苦労なこって」
「貴方には是非、見習って欲しいですね」
「じょーだん。俺は俺」
そう言ってリクがまた書類に顔を埋めようとした時。
コンコンコンコン……。
と、四回ノック音が響いた。
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