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羽柴秀長率いる羽柴軍本隊は、1万を超える負傷兵を丹羽長秀と筒井順慶が率いて坂本に引き返し、時を同じくして、塩津浜の紀伊軍第3軍、第5軍は賤ヶ岳に向け進軍を開始した。
塩津浜に残る羽柴軍は、大幅に数を減らし、約2万となり、ほとんどの将兵が少なからず、傷を負っていた。
「兄上を頼って参集した方々の兵らを、わしはこれほどまで減らしてしまったわ」
秀長は塩津浜に残った将兵たちを眺め、思わず弱気な言葉を呟いた。
「小一郎殿、秀吉殿が戻らぬ今、総大将は留守を預かるそなたなのじゃ。
弱気になってはいけませぬ」
「そういう官兵衛とて、自らの策を講ずる機会を紀伊殿らに奪われ、うずうずしておるではないか」
「いえ、それがしは・・・」
「隠しても無駄じゃ。
それに軍師・黒田官兵衛の顔はいつもの策士の顔ではなくなっておるぞ」
秀長の、真意を突いた言葉に、官兵衛は動揺した。
「そなたが気にしておるのは、息子・長政のこと・・・であろう?」
「はっはは、見抜かれておりましたか」
黒田官兵衛の嫡男・黒田長政は、紀伊家の火器戦術に惚れ込み、父のもとを離れて紀伊家に仕えていた。
長政の主である紀伊義明も、官兵衛ゆずりの軍略と将たる器を認め、1個歩兵師団を率いさせていた。
賤ヶ岳には、紀伊義永の第5軍・第13歩兵師団を率いて出陣していた。
「賤ヶ岳に向けて出陣する前に、倅がわしに会いに来おって・・・
しばらく見ぬ間にずいぶんと立派になっておりましたわ。
今では1万3000の兵を率いておるとのことで」
「ほぉ、1万3000か!
わしより多いの!」
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