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「大丈夫だよ、明日頑張れば」
「……そう?」
「うん、美紗ちゃんなら大丈夫」
笑顔でエールを送る紀久美とは対照的に、美紗は浮かない顔をしていた。明日に迫った新入生歓迎会を前に自信をなくしていたからだ。先ほどの生き生きさはあくまでも景気づけである。
「……外したらどうしようか」
「とにかく笑顔」
「選挙じゃないんだから」
紀久美だからこそ成功できるのだろう、と美紗は心の中で呟いた。彼女には成功できる気はしなかったのだ。――外したら、笑顔さえも出ないよね、きっと。
明日に迫った新入生歓迎会、美紗はアーチェリー同好会として出し物を1つ企画していた。出し物と言っても、ステージ上で実際に矢を射るデモンストレーションに過ぎないが。歓迎会は、部活にとって部員獲得のためのプロセスであり、毎年部員たちは力を入れている。
「逆にわざと外すのもいいかも」
「お笑い?」
「去年やったよね、高槻先生」
「あれは素でしょ」
思わず美紗は思い出し笑いをする。昨年、アーチェリー同好会顧問の高槻孝信(たかつき たかのぶ)は、歓迎会のステージ上で見事に風船を外して、生徒の笑いを誘った。しかしながら、結果は部員1人であったが。
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