プロローグ

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 夏にしては涼しい風が、凶器に感じられた。  灼熱の競技場に冷涼を送るはずの風は、選手たちを苦しめる。列島に多大な被害を与えた台風は過ぎ去ったが、暴風は吹き止まなかった。  アーチェリーと言う競技において、風を読むことはとても重要である。  いつも一定な風であれば、まだ苦労はしない。しかしながら、風とは四方八方から吹いてくるもの。対応するのが難しくなってくる。しかもそれが暴風なら尚更だ。たとえ微風でも微妙に狙いがずれて、矢の流され方が変わることがある。  風は強い選手にも弱い選手にも等しく訪れる。風をどう乗り切るかは、選手次第だ。それはプラスにもマイナスにもなるのだから。  つまりアーチェリー選手――アーチャー(archer)にとって、風を読むことも実力のうちなのである。
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