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「え……」
クリッカーが落ちた。
矢は飛んで行かない。まだレストの上に乗っている。
つまり、引き戻し。
一瞬だけ思考が停止した。まだ時間はあるはずなのに、もう時間切れのような感覚。
頬を風が叩いた。それで私は我に返って、もう一度矢をつがえ直す。
肩が上下する。手汗がひどくなってくる。ひどく動揺していた。右手が震えてくる。焦っていた。必死に落ち着かせる。……落ち着かない。
そんな中、刻々と制限時間だけは過ぎていく――残り20秒。
たった1本の矢を40秒かけて行射する。どんなに簡単なことだろう。
40秒以内に3本も6本も射てと言っているわけではない。
簡単なことなのに……なのになんで……
こんな時に限って、たった1本が射てないんだろう。
気まぐれに吹き荒れる暴風の中、私は立ち尽くしていた。――ずっと夢見た場所で。
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