半径1m、空虚

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生に対し、余りに無気力で、 唯、単に 「生きているから」、 生きている。 そんな受配的な感じだった。   半径1m、空虚。 空を身近に感じる場所。 長身の彼の腰上辺りまである落下防止の柵に身体を預け、 片手には力無く携帯を握り、 下校中の生徒達を眺めている。 今まで授業をサボっていた訳ではない。 授業が終わってからここに来た。 始業式より二日。それはこの先日課と化すだろう。 普通なら関わりたくないタイプの人間が、この場を占拠していそうなものだが不思議と誰もおらず、 閑散とした場所になっている。 校舎からグラウンドを挟んだ正門の向こうに消える生徒の数が減った所で、 漸く帰ろうと思い立ち、 屋上から下駄箱へと続く長い階段を降りたその時だった。 「お、吉澤じゃん。」 自分の背丈と30cm程差がある樟葉遥希がホールの方向から悠長に歩いて来る。 視線を相手に合わせようと少し下げると、彼は一瞬不快そうな顔で吉澤を見上げた。 初めて言葉を交わした日、見下されるのが嫌いだと言っていたか。 身長差からして仕方の無い気もするが。 「…あー…もう良いや。つーか今まで何してたんだぁ?」 身長の事よりも、何故ここに居るのかが気になったのだろう。樟葉は不満を己の中に止どめて尋ねる。 「屋上に。」 ぽつりと呟いた答えに、更にも増して怪訝な表情で反面、馬鹿にした様にこう言った。 「はァ?」 尤もな反応だ。 吉澤は一日を締めくくるHRの後、クラスメートからの“放課後の誘い”を断り、 誰よりも早く教室を後にしていた。 それから数十分経った今、こうして下駄箱に居る。 しかも会話がどこかずれている。 「やっぱりお前ってチョ~変な奴だなー。」 ヒャヒャッと男にしては甲高い声で笑いながら樟葉は既に踵の潰れてしまった真新しい上履きから、 ブランドロゴの大きく入った外履きに履き替えた。
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