半径1m、空虚

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微かな“音”に気づいたのは、電車に乗り込んだ時だった。 誰かのヘッドフォンから漏れている音の様な、 断続的に聞こえる声の様な。 吉澤は帰宅準備の際、鞄の中へ放り込んだMDの存在が脳裏に浮かんだ。 放り込んだ衝撃か、何かの反動で電源が入ったのかも知れない。 鞄を開け、MDを探し、確かめる。 電源は入っていない。 気のせいだと確信し鞄を閉めようとしたが、中に埋もれて光る物を見つけ手にした。 それは携帯のディスプレイ。 [通話時間 13分27秒] それは未だ秒を刻み続けている。 以前にも同じ事があった。揺れる鞄の中で勝手に呼び出されてしまったアドレス帳に、勝手に発信していたのだ。 更に今回はご丁寧にもスピーカー受話になっていた為、 こうして外に音が漏れていたのだ。 溜め息をつき、スピーカー受話の設定を解除すれば受話器に耳を宛てる。 『……ノ少女……れる方ハ……』 発車した電車の振動音に混じって聞こえたのは、予め録音された女性の機械的な声だった。受話音量を上げ聞き取ろうとしたが、車内だと言う事もあり切る事にした。 ピッ。 ディスプレイに映る[3]の文字。ボタンを見ずに押した為、OFFボタンからずれてしまう。 次に正確なボタンを押すと、[通話中]の文字は消え、購入時に設定されていた味気無い待ち受け画面に戻った。 そして吉澤は何事もなかった様に、日々下車している見慣れた駅で降り、帰路を歩きだした。
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