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そんな言葉の応酬と、時々スリリングな攻防が滑り込む、日常。
生まれてから十八年目にあたる年の、秋も間近のある日。
弓木が倒れた。
病院に運ばれて、鈴鹿と弓木が弾かれた大人だけの集まりが、医者に呼ばれて、弓木の入院が決まった。
カタ、と鈴鹿は自分の中の、なにか要のような大事なモノが外れた音を聞いた。
「普段の自分」というバランスを保っていた大事な部品が唐突に崩れて――。
「……私は死なないぞ。なんでそんな顔をしている」
仏頂面で呟かれた弓木の言葉に、何も返せずに鈴鹿は病室から逃げ帰った。
以来、鈴鹿はことあるごとに十年も前に死んだ母を思い出すようになった。
鈴鹿は母の妹に似て、その代わりのように弓木は鈴鹿の母に似た。
そんな二人を見て、叔母は「取り替えっ子みたいね」と笑っていた。
弓木の入院と母の記憶で不安定な鈴鹿を嘲笑うように、弓木が病院に縛り付けられたまま、季節は初冬へと変わり。
「長くなりそうなの」
叔母にそう告げられた鈴鹿は、ただ俯いた。
その日、鈴鹿は和泉をつれて久しぶりに弓木の病室を訪れた。
それなりに大きな私立病院の、四階建ての三階にある一室。
その贅沢な一人部屋のベッドの上で、弓木は大きく眼を見開いた。
「珍しい」
開口一番にそう言った弓木は、少しだけ痩せていた。
一瞬だけ瞠目して、それと分らないように息を吐き、何食わぬ顔で鈴鹿はベッド脇の椅子に腰掛け、もうひとつの椅子に和泉を促す。
「珍しくて悪かったな」
「本当に」
憎まれ口を叩き、それでも嬉しそうに弓木は頬を緩めている。和泉が手渡したコンビニのプリンに目を細め、素直に礼まで言っていた。
弓木の髪は方に届かないほど短く切られ、細くなった身体は淡いブルーのパジャマに包まれていた。
それがおぼろげな母親の記憶と重なり、鈴鹿は口をつぐむ。和泉と弓木は談話に集中していた。
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