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「学校、どう?」
「授業は進んでるけど、まぁたいしたことないんじゃないかな」
「和泉の「たいしたことない」はだいたい大事になる。信用しないでおこう」
「ひどいな」
和泉は苦く笑い、それからわずかの逡巡を見せて、口を開いた。
「……弓木。退院の、目処なんかは」
「残念ながら、まだだ。――抵抗力が、弱っているらしい。あまり外など出歩くのもよくないと。風邪の季節でもあるし、気をつけるに越したことはないそうだが」
暇だよ、と男のような口調で弓木が笑う。今まで見せたことの無かった、苦みばしった笑みだった。
ふ、と微笑んだ瞬間の儚げな笑顔が、窓の外の枯れた枝を見つめる。
窓ガラスに映ったその表情に息を呑み、鈴鹿は強張った指を無理やり握り締めた。
わずかにかさついた弓木の唇が、ゆっくりと開く。
「美人薄命というやつかな」
呼吸が止まる。
心臓が鷲掴みされたような心地だった。
カラカラに乾いた口腔を湿らすように唾液を嚥下し、握り締めた指をゆっくり動かす。軋むようにぎこちない動きで手のひらに爪を立て、鈴鹿は唸った。
「馬鹿を、言うな」
冗談じゃない。
立ち上がり、冗談に不安を紛れ込ませた従妹を怒鳴る。
「何が美人薄命だ、調子に乗るな!」
「な」
和泉が立ち上がり、「ここ病院」と控えた声で叫んで鈴鹿の肩を掴む。
鈴鹿は退かず、亡母の残像を打ち払うように、さらに声を上げた。
「仮に千歩譲ってお前が美人だったとしても、お前は、死なない」
突然のことに呆気に取られている弓木を、強い視線で鈴鹿は見据えた。
和泉にも弓木にも声はなかった。病室の中がシンと静まり返る。
「お前より数段美人の俺が、ピンピンしている」
だからお前が俺より先に死ぬわけが無い。
無茶苦茶な理屈を声高に宣言した男に、病室は呼吸どころか心拍まで聞こえそうなほど静まり返り、そして。
「っ」
鈴鹿の鼻先を果物ナイフが掠めて飛んだ。
「弓木!!」
悲鳴のような声を和泉が上げて、弓木と鈴鹿の間に立ちふさがる。
そんな友人を押しのけて、病床の弓木は眉を吊り上げた。
「馬鹿馬鹿しいッ。まったく、馬鹿馬鹿しい!」
そう叫んだ弓木はやがて俯き、小さく笑うように吐息した。
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