~産声の日~

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  同じ稲妻が、廃墟の外郭近くを彷徨うふたつの人影を照らす。   長い耳を怯えたように伏せたヴィエラと、彼女に抱えられるようにして、覚束ない足取りでよろめきながら歩くヒュムの男。無駄な肉のない鍛え上げられた身体には、原形を留めぬほどに拉げ、雑巾のようになった甲冑の残骸が纏わりついていた。それもついには留め金が弾け、歩を進めるごとに亀裂の入った漆喰壁の如く剥がれ落ちていく。荒廃した街路に濁った金属音が響くたび、まだ歳若いヴィエラは眉を寄せてうつむいた。   同じく若いそのヒュムには、表情がなかった。己の置かれた状況を理解していないといった風情で、ヴィエラに支えられながら機械的に足を出す。魂が抜け落ちていると、そう表現したほうが正確であるかも知れない。身体を預けている相手が誰であるのかさえ、彼には判然としていないようであった。意識の中心は混濁を続け、神経をさす稲光の閃くにも反応を示さない。   そんな状態にありながらも、彼の片腕には鞘に収め紐で括られた、二振りの剣が確と握られていた。まるで、それこそが己の魂そのものであるかのように。   やがて、二人は都の境界に達した。殺戮と破壊の爪痕から逃れ、ふらつきながら樹海へと消えゆくふたつの背を、一際激しい稲妻が白く染める。   咎めるが如くに。  
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