~産声の日~

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  だが、その瞬間に解き放たれたミストの濃度は、単に異常という言葉で表現できる域を超えていた。   喩えるなら、千年の間に降るであろう雨の総量が、わずか一時間のうちに降り注いだようなものだった。空間すべてを隙間なく雨滴が満たし、それでもなお足りずに水圧が上昇していく――こうした仮定の現象が、活性化して猛り狂うミストでそのまま起こったのだ。   視えず触れぬはずのミストが、高密度に圧縮されて光り輝く黄金色の奔流と化した。それは接触した物質を粉砕するエネルギー塊となって巨大な渦を巻き、市街を容赦なく薙ぎ払う。ほとんどの建造物がこの実体化したミストの爆発的奔流で破壊され、倒壊した。辛うじて無事であった建物は、広大な都の中にあって、生じた渦の中心たる堅牢な王宮の他は数えるほどしかなかった。   そのミストの暴威も、時間にすれば数秒に過ぎぬ。次に都を襲った現象こそが、地獄のイメージすら凌駕する阿鼻叫喚の惨劇を現世にもたらすものであったのだ。恐怖と、驚愕と、憎悪と狂気とを引き連れて――。   王都の全域に拡散し、なおも濃度を減じさせることのなかったミストは、その膨大なエネルギーを別の形で暴走させ始めた。即ち、魔法の発露である。  
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