~産声の日~

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  そこでは、破滅的な効果を生み出すあらゆる魔法が発動した。炎、冷気、雷撃――良く知られるそれらは、誰も知らぬ激烈さで、圧縮ミストの初撃から生き残った不運な人々にまず襲いかかった。   魔の熱を孕んだ火炎は、岩を蒸発させるほどの高温に達して空間を焦がした。そこかしこで噴き上がる紅蓮の蛇のようにうねり、その舌先に舐められた者たちは一瞬に消し炭へと変わった。これを逃れた者も、熔け崩れた石材の溶岩流に飲まれて生きたまま燃え、超高温の蒸気を浴びてぐずぐずに白く煮えた屍へと変じた。   そのすぐ傍らでは想像を絶する極寒の世界が展開していた。物質を構成する分子が運動を止める絶対零度の超低温がいきなり生じ、瞬く間に巨大な氷柱と化して周辺の犠牲者たちを生命なき彫像に作り替えた。霜に覆われたそれらは氷像として刹那の美を示し、次の瞬間には微塵に砕けて消滅する。数千の命が凍てつく花となり、凄絶に散り果てていく。   もっとも苛烈に生を奪ったのは、この超高熱と極低温の間の電位差で勢いを増大させた雷の嵐であった。随所で絶え間なく閃く雷火はすでに廃墟としか呼べぬ都を白く染め上げ、その電撃エネルギーはひと繋がりの網の目となって、残骸の影に隠れて震える者たちをしらみ潰しに捕らえていく。都そのものを巨大な蜘蛛の巣と見立てたが如く、蠢く紫電の糸が絡みつき、骨をも砕く衝撃とともに数多の魂を刈り取っていく。  
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