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巻き上げられた噴煙と塵を大量に含んだ黒い雨が、やがて廃墟に降り注ぐ。それは大気中にまだ高濃度で漂っているミストをも吸収し、荒廃した大地に浸透させていった。市街だった地域は腐臭を放つ広大な湿地帯へと姿を変え、永遠に晴れることのないヴェールとなって包み込んだ。
かくして、呪わしき地がこの世に産み落とされた。常軌を逸した量のミストがわだかまる、永劫に“魔”に汚染された廃墟の街――そこはほどなく、忌むべき名で呼ばれるようになる。
死都ナブディスと。
※
ナブディス壊滅の、その直後。
降りしきる雨に、風の哭く音が響いていた。轟々、びょうびょうと。
だが、風ではない。暴走したミストによってもたらされた混沌の反動か、大気は重く動かない。ただ、雨滴に切り裂かれるままに留まっている。
それは、慟哭であった。打ちひしがれた魂が、残された憎悪だけに縋り、その捌け口を求めて叩きつける悲しき咆哮――。
惨害に見舞われ、徹底的に破壊し尽くされたこの地に、それでも生き延びた者はいた。偶然が重なり、縦横に振り回される死神の鎌を逃れた幸運なる者――否、生は決して、無条件の僥倖などではない。ともに果てていれば、それ以上の悲しみが刻まれることはなかった。このような声を絞り出して、嘆き続けねばならぬ業苦は生まれなかった。
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