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動かないリト様の手を木の枝とでも勘違いしているのでしょうか。
蝶は静かに羽を休めておりました。
「綺麗な羽ですね…」
すると突然、蝶はリト様の手から慌てたように飛び立ちました。
理由は、全く動かなかったリト様の手が、ぴくりと動いたからでした。
…えっ…。
「…り、と…様…?」
返事はありません。
私はたまたまなんだと自分に言い聞かせました。
そんなことがあるはずはないんだと。
けれどやっぱり、何よりも望んでいたことだから。
「リト様、リト様。起きて下さい。リト様。私の声が聞こえますか?」
手を強く握りしめる。
私は思わず涙を流してしまいました。
「リト様、私は、本当はどうしたらよいのかわからないのです…。
ここが、胸が痛くて堪らないのですっ。
昔の貴方を思い出すたび、物言わぬ貴方のお世話をするたび、私の胸は張り裂けそうに痛むのですっ…。
楽になりたいと、何度も何度も思いました!
ですが、いつか奇跡が起こって、貴方が目覚めるんじゃないかと、ずっと…ずっとっ…考えていてっ…!
だからっ…」
涙が止まらず、その雫がリト様の手に降り注ぐ。
いつからこんなに泣き虫になったんだろうと思いながら、強く目を擦って涙を拭っておりました。
すると、何かが私の目元にゆっくりと触れました。
それは紛れも無く、リト様の手で…。
私は目を見開きました。
「…り、リト、様」
「…迎えに来たぞ、このポンコツ」
「…はいっ」
その手に、手を伸ばした。
水花草が咲き乱れるこの地に、冷たくなった老人と、動かなくなったアンドロイドが、さも幸せそうに眠っていた。
その光景は、見た者を感動させる程のものだったそうだ。
「毎度あり、です」
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