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「…貴方が気に病むことはありません。貴方は利用されただけだ。エシュロンは人間もアンドロイドも大嫌いなんですよ」
「アンドロイドも?」
アンドロイド嫌いの人ってあんまり見たことないんだけど…。
便利だし、いるのが当たり前だから邪魔だとも思わないし…。
「それに対して僕はね、人間もアンドロイドも大好きなんです。人にしろアンドロイドにしろ、心とは何よりも美しいものだ。
助けられるなら、助けたい。医者の資格も整備士の資格も、そのためにあるんですから」
薄暗い路地裏。
何の物音もしない。
彼の足音すら。
あたしは、エシュロンも足音を一切立てずに歩いていたことを思い出した。
「…貴方はエシュロンとどういう関係なの?」
「兄弟ですよ。一応あっちが兄でしてね」
「兄弟…」
じゃああいつの、家族ってこと?
あんな殺人鬼の。
「どうして辞めさせないの?兄弟なら、辞めるよう説得出来るでしょ!?」
「…エシュロンはアージェンの命令で動いているし、あれは趣味なんですよ。説得しても聞かない」
「趣味って…酷い…」
人殺しが趣味?
なんて最低なの!!
人の命を何だと思ってるのよ!!
あたしは酷く憤慨していた。
だから、気付けなかった。
お人形屋さんの声が、憂いを帯びていたことを。
「まあ母だったら止められるかもしれませんがね…」
「じゃあ言って貰いなさいよ!」
「…もう、随分昔に亡くなりましたよ」
あたしは目を見開いた。
しまった。
そう思い、言葉をなくす。
彼は歩を緩めた。
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