ジニー

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  だから、 「…エシュロン」 お人形屋さんの呟きなど、私の耳には全く入っていませんでした。 私はその日から、物言わぬリト様のお世話をするようになりました。 心臓が動いている以上、生きていると判断するのがこの地域の決まりでした。 お世話といっても、栄養剤を打ち、糞尿を出させ、お風呂に入れたり服を変えたりするだけ。 たまに散歩にも行き、音楽を流し、何度も何度も話しかけました。 一日の大半を機械に繋がれたリト様は、本当に今にも目を覚ますのではないかというくらい血色のいい肌をしておりました。 本当に、ただ眠っているように見えて仕方がありませんでした。 「こんにちは」 「あ、いらっしゃいませ。また不法侵入をされたのですか」 「申し訳ないですねぇ。何分、こっそり入るのが趣味なもので」 「変なご趣味をお持ちで…」 くすくすと彼は笑う。 お人形屋さんは、あれから月に一度程こちらに訪れるようになりました。 何か後ろめたい事でもあるのでしょうか。 私やリト様を治療して下さっただけで十分だと言うのに。 「リトくんはお元気みたいですね。初めて会った時はあんなに若かったのに、もうこんなに皺くちゃですが」 「あれから八十年ですので…」 八十年。 自分で口にしてみて、とても嫌になりました。 リト様は九十二歳になられました。 年々皺が増え、髪が白くなって抜け落ち、体が小さくなっていく。 私は変わらぬまま。 そしてお人形屋さんも。 彼が人間でないことは、一目瞭然でした。
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