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「…お人形屋さん。どうしていつも私達を気遣って下さるのですか?
貴方には感謝しきれないほどよくしてもらいましたのに…」
「…」
この質問をすれば、彼は必ず口を閉ざされました。
お話しにくいことなのか、それとも彼にもわからないのか…どちらにせよ、彼はいつも話しては下さいませんでした。
ところが今日は、彼は口を開きました。
「…リトくんを殺した男は、僕の兄弟なんですよ」
「…えっ」
彼の言葉に、目を見開いた。
まさか、まさかそんな言葉が出て来るなんて思ってもみなくて。
じゃあずっと彼は、罪悪感を感じていたとでも言うのでしょうか。
彼に非はないのに。
ただ兄弟というだけで、彼はこの八十年間ずっと…。
私は俯き、そして顔を上げて微笑みました。
「…貴方は悪くありません。リト様だって、貴方を責めるはずもありません。
貴方は罪悪感を感じなくてもいいんですよ」
「違うんです。そうじゃない。…僕は、僕は止められたはずなんですよ。
エシュロンが人間もアンドロイドも嫌いなのを知っていた。
…なのに、何もしなかった。兄弟だからと、見逃していたんです。
…その結果が…リトくんだ。…僕は」
彼は両手で顔を覆いました。
泣いているのかと思いました。
けれど彼は泣いていなくて、でももしかしたら、あの仮面のせいなのかもしれないと思っていました。
「…すみません、取り乱しました」
「…いえ…」
「そうだ、知ってますか?この時期にはテドリッシュの丘に、一面の水花草が咲くそうですよ。
水色の小さな花を咲かすあの花の花言葉、ご存知ですか?」
「いえ」
水花草…。
確か、二百年前に出来た新しい品種ですよね。
花びらが透明な水色で、まるで水のようだと聞きましたが、花言葉までは知らないですね。
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