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「…母は殺されました。昔から泣き虫だったエシュロンは、大声を上げて泣いて泣いて泣いて…。
そして壊れてしまったんです。どうして母が殺されなければならないのかと。
死ぬべきなのは人間で、自分達を差し置いて存在するアンドロイドも、いなくなるべきだと。
アージェンと僕は泣きませんでした。悲しいという感情を超越していて、涙すら出ませんでした。
イルフィは静かに泣いていました。そして仕方がなかったんだと、そう自分に何度も言い聞かせていました」
皆兄弟、なのだろうか。
あのエシュロンが声を上げて泣いているところが想像出来ない。
けれど、悲しみを超越した感情を、あたしは痛いほどよく知っていた。
「…あたしも、冷たくなったお父さんを見ても…泣けなかった。受け入れたくなかった。お父さんが死んだってこと…」
「そうして貴方は自棄になって身を汚してしまったんですね」
「…何もかもどうでもよかったの。お父さんがそうまでしてあたしに生きさせようとしてくれたのに、今更死ぬわけにもいかないし…。
…きっと、天国で怒ってる」
まいったなぁ。
でもあたしが行く先はきっと地獄だから、お父さんには会えないかな…なんて。
あたしは自嘲するかのように微笑んだ。
路地裏を抜けると、お人形屋さんは横断歩道を渡り、向こう側にある木造の建物へ向かっていった。
あたしを抱えたままドアを開けると、そのドアに付いたベルが、からんと音を立てた。
椅子が二つ、向かい合って置かれている。
その間には丸いテーブルが。
でもそれ以外、ここには何もなかった。
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