メアリ

5/18
36186人が本棚に入れています
本棚に追加
/348ページ
  「止めて!」 『畏まりました』 ぴたりと、馬車が店の前で止まる。 扉が自動で開き、階段が出て来る。 馬車から降りて、私はゆっくりとその店に歩いていった。 店の壁に触れると、ごつごつした感触と匂い、それから微かな温もりを感じ、私はハッとした。 「…本物の、木だ…」 今や供給も殆どなく、希少価値の高すぎる木材を建物に使うなんて、よっぽどのお金持ちで変わった趣味の持ち主しかいない。 私はドキドキしながら、ドアノブに手をかけた。 からん... ドアに付いたベルが鳴る。 中は誰もおらず、置かれているものも長椅子とカウンターしかなかった。 カウンターの向こうには扉がある。 あの中にいるのかしら。 「あの、すみませーん。誰かいますかー?」 返事がない。 私はムスッとして、カウンターを飛び越えて奥に入ってやろうと手を置いた。 「…ああ、駄目ですよ。女の子がそんな、はしたない」 「え?」 振り返るとそこには、目元を隠す白い仮面を付けた、真っ白な長い髪の男性が立っていた。 私は不審げに彼を見つめる。 …今ベル、鳴らなかったのに…。 「お客さんなんて久しぶりですね。まあ、そこにかけて下さい。今紅茶を出しますので」 「お客っていうか…私はこの店が何なのか知りたくて入っただけよ。 看板もない店なんて、気になるじゃない。それで客集めでもしてるの?」 「まさか。ここに来るお客さんが望んでいるのは一つだけですから。 看板なんていらないんですよ」 「一つだけ…?」 ここに来る客が皆、同じものを望んで来るって言うの?
/348ページ

最初のコメントを投稿しよう!