ケイン

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  「…まあそう気に病まないで下さい。 ケインだって貴方に泣いて欲しくて助けたわけじゃないですし、それに、彼はアンドロイドですから」 「…。 …は?」 私は手を退け、人形屋さんを見る。 彼はポケットから、鮮やかな紫色の透明な玉を私に見せた。 アンドロイドの心臓部である、コアだ。 「ケインのコアですよ」 「…嘘。嘘よ!だってあんな人間みたいなアンドロイド、いるわけないわ!」 「事実ですので」 「…っ…」 人形屋さんは笑う。 私は、彼が嘘を言っているようには思えなかった。 …そっか…じゃあ! 「ケインは直せるのね!?」 「ええ」 私は嬉しさのあまりまた涙が溢れる。 この際、ケインがアンドロイドだとかそんなことはどうでもよかった。 ケインが戻って来てくれるなら、それで… 「そのはずでした」 私は固まる。 人形屋さんは玉をくるりと回し、裏側を見せた。 そこには大きな皹が、縦に入っている。 私は目を見開いた。 「…コアは一部が欠けただけでもう使えなくなってしまう。 そのかわり熱と衝撃には半端なく強いはずでした。 …ケインはね、野良犬や野良猫を助ける為に、何度も車に轢かれていたんですよ。 何度言っても聞かなかった…」 「…そん、な…」 じゃあケイン、は。 もう二度と。 「…もうケインは、直せないんですよ」 その言葉は私の胸に深く突き刺さる。 期待した分、重く、強く。 あああ…私はなんて最低な女なの。 私が殺したようなものなのに、一瞬でも罪の意識から逃れたなんて。 私はなんて…。
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