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俺には兄貴がいた。
魂のブラザーとかそんなんじゃなくて、血の繋がった方の。
いたってことは過去形で、つまり今はいないってことだ。
俺は兄貴が大嫌いだった。
兄弟なのに兄貴の方が凄く頭が良くて、将来医者になるって言って、すっげえいい大学の医学部に首席で合格した。
それに対して俺は、ごく平凡な高校生。
勿論金や親の愛情とやらは、全部兄貴に注ぎ込まれていた。
俺は何も貰えることはなかった。
兄貴は病気で死んだ。
突然だった。
でもそれは俺が知らなかっただけで、実は兄貴は元々心臓が悪かったらしい。
だから早く医者になって、生きてる間に沢山の人を救いたい、だってさ。
発作もよく起こしてたけど、俺に心配かけないように、俺の前では必死に我慢していたらしかった。
今思えばそれらしい行動は沢山あったのに。
俺は兄貴が大嫌いだった。
うん。
嫌いだ。
最後まで兄貴面しやがって。
手紙に、
『もし俺が死んだら、俺の分までシューイを大切にしてあげて下さい』
だってよ。
その手紙、五歳のときに書いたんだぜ?
いつ死ぬかわからないから。
俺は兄貴が大好きだ。
現在進行形でな。
まあ言ったら、俺達はやっぱり兄弟だったらしい。
どっちも最後まで素直じゃなかった。
兄貴はいつも憎まれ役になろうとしてた。
『勉強はしてるのか?』
『母さん達に心配かけさせるな!』
『また喧嘩したのか!』
兄貴は俺に憎まれようと必死だったのかもしれない。
自分だけ大切にされてごめんなって。
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