メアリ

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  「…あはっ。あはは!そんなの有り得ないじゃない!人それぞれ年齢も環境も違うのよ? そんなの、同じものを望んでるなんて、確率が低すぎるわ! じゃあ私の望んでいるものを言ってみてよ!」 青年はカウンターの端を開いて通り、カウンターの向こう側で紅茶を入れ、差し出す。 カウンターは棚になっているみたいだった。 青年は口の両端を吊り上げ、頬杖をつく。 「当てたら値段を倍にさせてもらうよ?」 「…い、良いわよ?別に。当てられるわけないじゃないっ」 当てられる訳無いわ。 当てられる訳無い! お母さんが帰ってきて欲しいなんて…そんなの…。 青年はゆっくりと口を開いた。 「僕のお人形さんを買いに来たんだろ?」 「は?」 お人形さん? この人の? 私はきょとんとした。 「…何?それ。貴方人形売りなの?私人形が欲しいほど子供じゃないわ」 「本当かい?おかしいな」 青年はクスクスと笑いながら、扉を開けて奥に入っていった。 私は湯気の立つ紅茶を取る。 …えっ。 これって…。 私は紅茶の香りを嗅ぐ。 紅茶の色も香りも、私はよく知っている。 だって…お母さんが好きだったものだから。 私は香りを堪能しつつ、ゆっくりと紅茶を口に含んだ。 懐かしい味が口いっぱいに広がる。 私は自然と笑顔が零れた。 「美味しい…」 「それは良かったわ」 「え…」 不意に女性の声がして、私は顔を上げる。 そこには、もう写真でしか見ることの出来なかった、母の笑顔があった。 私は、息が詰まる。
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