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「静かになったなぁ…」
「きっと勇助が四ノ宮さんに手取り足取り教えてもらってる姿を見たくなかったんだね。皆。」
「ま、静かになって勝負に集中できるからいいけどな。」
四人以外にいなくなった教室でも何やかんやで五月蝿いこいつら。
結局、勇助と咲姫の勝負を観戦するのは歩と空音の二人だけ。
「ま、五月蝿いのには変わりないけどな。」
「勇助…それが応援してくれる友人に対する言い種か?」
悪態つく勇助に苛立つ歩だが、咲姫の手前なので怒るわけにもいかない。
渋々我慢して気持ちを落ち着かせる歩だった。
「じゃ、まずはチェスの駒の説明から始めるわね?」
「おう。どんとこい。」
そしてようやくチェスの説明開始。
咲姫の説明はすごく優しくて親切で隣で見ている歩がハンカチを噛みながら羨むくらい素晴らしいものだった。
のだが……
「え~っと…こっちがポーンでそっちがルーク…だっけ?」
「逆ね。こっちがルークでそっちがポーンよ。」
物覚えは悪い方ではないのだが、駒に漢字で書いてある将棋でさえおぼえるのに多大な時間を費やした記録がある勇助。
チェスの駒の名前を記録するだけでも精一杯だ。
「……これビジョップ?」
「それはナイト。」
「あぁ…ナイトか…」
中々に難航するチェス説明。放課後でもう日も暮れて時間がないのにまったく憶えない勇助。
「…もし5時までに憶えれなかったら今日の勝負は無条件で私の勝ちにするからね。」
「え!?い、今は…4時半!?あと三十分しかないじゃねぇか!?それはいくらなんでも横暴じゃ…」
「返事は?」
焦る勇助に対しニッコリ笑顔(目は笑ってない)な咲姫。その笑顔からは怒気とも殺気ともとれないオーラが出ている。
「……………はい。」
やむなく頷く。もし、今頷かなかったら明日にはクラスの男子全員が敵になっている可能性があるからだ。
「よろしい。じゃ、後三十分頑張って憶えましょ。」
「…………は、はい…」
三十分。
あと三十分で憶えなけれは今度の罰ゲームはパシりでは済まされないと草食動物ばりの生存本能で悟った勇助だった…
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