過去の楔

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[は? 規則なんてものはな、守りたくない時に守れば守りたい時には守らなくてもいんだよ]  守りたい時には守ろうという意思が勝手に働くから、取り立てて気にする必要なんてないのだと、あいつは言った。 二の句が告げずに白目になっている相棒──出雲の傍らで、俺は名言だと思った。あいつはいつもいつも俺たちから反論の言葉も気持ちも奪い取る、ハリケーン的存在だったんだ。 それでいて、全く共通点のない俺たちを繋げる唯一の接着剤だったのかもしれない。効果絶大な瞬間接着剤が風化するや、俺たちは瞬く間に散り散りになって今やお互いに名前を聞くことすらないほど遠い存在となってしまった。 出雲のおかげで数年ぶりに懐古される旧友たちの顔と名前。しかし、会いたいとは思わない。出来ることならこのまま一生会わずに終わりたい。 接着剤が無くなった今、ガラクタを寄せ集めた所で所詮はガラクタに過ぎない。お互いの破損ヵ所を補い合うこともなくいがみ合い、傷を拡げ合うだけだ。 春日(かすが)と秋橙(ときとう)、秋橙と出雲辺りならまだしも…俺と春日、俺と秋橙なんて目にも当てられないに決まっている。まして…… [まして巽(たつみ)なんか、俺たちの誰とも馴れ合わねぇしな] というか、俺たちの誰もがあいつを受け入れないしあいつも俺たちの誰にも見向きもしないだろう。 暮巴さえいなかったら、俺たちは決して出会うはずがなかったんだ。 ウ゛ウ゛── 性懲りもなく再び暴れ始めた携帯電話。今度こそ表示画面を見ることもなく、俺は電池パックを取り出した。 →
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